サイコビリーとは?

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サイコビリー(Psychobilly)は、1970年代後半〜1980年代前半に誕生した音楽。ロカビリーとパンク・ロックからの影響が色濃いジャンルで、ウッドベースによるスラップ演奏——“カチカチ”というパーカッシブな音。ファンの間では“バチバチ”と表されることが多い——演奏を多用したサウンドが特徴。歌詞のテーマには黒魔術・オカルト・ホラー・殺人などサスペンス的なものが選ばれることが多いが、必ずしもそればかりではない。パンク・ロック色の強いサイコビリー・サウンドはパンカビリー(Punkabilly)とも言われる。

発祥

“サイコビリー”という言葉が初めて公に使われたのは、1976年にアメリカで発表されたJohnny Cashのコミック・ソング『One Piece at a Time』だと言われている。

 ある自動車組立工の男性は、毎日のように高級車のキャデラックを目にする職に就いているにも関わらず、それに乗ることができない現実を嘆いている。しかしある時、彼は職場にあるキャデラックの部品をひとつずつ盗んで組み立てていけば、タダでキャデラックをものにできると思いつく。この計画は長い年月をかけて完遂されたが、部品の年式を確認することを怠ったため、完成したキャデラックは無理矢理はめ込んだパズルのように無様な姿になっていた——。

 曲中では、この奇妙な外観のキャデラックを“サイコ-ビリー・キャデラック(Psycho-Billy Cadillac)”と呼ぶ箇所がある。しかし、曲そのものはカントリーやロカビリーに分類されるものでサイコビリーとは言い難く、サイコビリーの由来がこの曲にあるのかも不明だ。

 音楽を指す意味での“サイコビリー”という言葉を生み出したのは、『One Piece—』の発表と同じ1976年に結成されたアメリカのバンド・The Crampsとされている。

Songs the Lord Taught Us

The Crampsの1stアルバム

 彼ら曰く、自分たちの独特のサウンドを表現するために作った言葉が“サイコビリー”——とのこと。実際、The Crampsの音楽はホラー・テイストが強く、精神病院でのギグの実施、マイクを“息子”に見立てる異様なライヴ・パフォーマンスなど、サイコビリーの名にさわしい作品や活動を多数残しており、彼らをサイコビリーの創設者として支持する声は多い。だが、音楽の方はあくまでガレージ・ロックの色が濃く、現在サイコビリーの特徴として知られる“ロカビリーとパンク・ロックを融合し、スラップ演奏を取り入れたサウンド”とは異なるとの指摘もある。

 現在のサイコビリー的なサウンドを作り出したのは1980年にイギリスで誕生したThe Meteorsと目されており、彼らこそサイコビリーの真の創設者だと言う声も根強い。

In Heaven(1981)

The Meteorsの1stアルバム

 いずれにせよ、どちらもサイコビリー・シーンにおいて大きな存在であることは間違いなく、The CrampsとThe Meteorsに影響を受けたと公言するサイコビリー・バンドも多くいる。

1980年代

 The Meteorsの結成後、イギリス・ロンドンで「Stomping at the Klub Foot」なる音楽イベントが誕生した。このイベントにはThe Meteorsを筆頭にKing Kurt、Demented are GoGuana Batz、Skitzo、The Sting-Rays、Frenzy、Long Tall Texans、Restless、The Coffin Nails、Frantic FlintstonesといったUKバンドのほか、オランダのBatmobile、アメリカのThe Quakesなど、のちのサイコビリーの大御所となるバンドが国内外問わず参加しており、イギリスでサイコビリーが浸透するきっかけを作った。現在でも多くのフォロワーを持つバンドたちが参加したこのイベントは、サイコビリー愛好者——サイコス(Psychos)——の間で伝説と化している。

 また、イギリス国外でも先述したBatmobileとThe Quakesに加え、スイスでThe Monsters、ドイツでSunny DomestozsやMad Sin、デンマークでNekromantix、ロシアでThe Meantraitors、アメリカでThe Reverend Horton Heatなど、サイコビリーの影響を受けたバンドが多く誕生していった。

 ヨーロッパから遠く離れた本国・日本でも、サイコビリーの波は届いていた。1980年代中頃〜後半にThe Falcons、Strut、The Stomps、Billy the Catsが活動を開始し、1986年にはその4バンドを中心に東京でサイコビリー・イベント「Monster a Go Go!」を開催。これが日本のサイコビリー・シーンの幕開けとされている。他にもThe Snow Men、TOK¥O $KUNX、The Scamp、Biscuits、Hornet'sなどのバンドが誕生している。

1990年代

 1990年代初頭にはアメリカを中心にメロディック・ハードコア・ブームが吹き荒れ、サイコビリー界にも強い影響を与えた。オーストラリアThe Living EndとアメリカのTiger Armyは、まさにその影響をモロに受けたとも言えるパンク・アプローチの強いバンドで、前者は1990年代を代表するパンク・バンドであるGreen DayやRancidのライヴで前座を務めたこと、後者はパンク・レーベルのHellcat Recordsからアルバムをリリースしたことで、サイコスのみならずパンク・ファン——通称パンクス(Punx)からの支持も獲得した。彼らをきっかけにサイコビリーを知ったという人も少なくない。

 日本ではMad Mongols、Spike、The Starlite Wranglers、The Peppermint Jam、Battle of Ninjamanz、デスマーチ艦隊Cracksなどのバンドが結成された。

2000年代

 この頃になるとHorrorPopsを始め、The Silver Shine、The Creepshow、Kitty in a Casket、The Hellfreaksなど、女性メンバーが参加するサイコビリー・バンドが多く台頭し始める。また、SpikeのMEN-X氏によればアメリカではパンク色を強めたバンド、ヨーロッパではオールド・スクールのロカビリー的サウンドを取り入れたバンドが多い傾向にあるという。

アンダーグラウンドなジャンル

 40年近い歴史を持つサイコビリーだが、世界的に見てもあまり大きな人気を持っているとは言えないようで、このインターネット時代にも思うように情報を集められないジャンルである。サイコスが名盤と太鼓判を押すようなアルバムでも廃盤になっているものが多く、そうでなくても流通が限られているのか入手が難しいケースも少なくない。上述のバンドも例外ではなく、現在では流通していても、いつの間にか入手困難になってしまう可能性は低くはない。従って、気になるアルバムがあれば、なるべく早く入手することをおすすめしたい。

 実はこのページの筆者も2010年頃にサイコビリーを知ったクチで、聴いたことがないバンドも多く知識も充分とは言えない。そんなビギナーがわずかに手に入れた情報でも誰かの役に立てばと思い、このサイトを作った。今後より知識が増えればこのページももっと充実すると思うので、気が向いたらまたチェックしてみてね。

参考文献

GREASE UP MAGAZINE Vol.7

いろんなバンドの国内盤付属のライナーノーツ

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