あらすじ:火薬庫から大量の爆薬が盗まれた直後、高校生探偵・工藤新一——現・江戸川コナンの下に犯人から堤向津川緑地公園に行くよう脅迫電話が届く。公園では少年探偵団の元太・光彦・歩美が見知らぬ男性から贈られたラジコン飛行機で遊んでいた。ラジコンに爆薬が仕掛けられていると気づいたコナンはとっさに危険を回避するが、それはこれから始まる連続爆破事件の序章に過ぎなかった。

ミステリは雑だがコナン映画としては優秀

 2018年6月4日現在、公開から7週連続で観客動員数No.1を記録し、興行収入は80億円に迫ろうかという空前の大ヒットを記録している『名探偵コナン ゼロの執行人』。その『名探偵コナン』の劇場版第1作がこの『時計じかけの摩天楼』である。公開された1997年当時『名探偵コナン』が1番好きな漫画・アニメであった私は、『時計じかけ—』ももちろん映画館まで観に行った。当時はガンガン爆発する派手な事件、爆破の恐怖に怯えながら減速していく電車、毛利蘭(山崎和佳奈)に託された究極の選択などに非常に満足して帰路に着いたものだった。しかしあれから21年が経過した今観ると、まあまあしょっぱい印象は否めない。とにかく謎解きの要素がしょぼいのだ。

 『名探偵コナン』と言えば倒叙——物語の冒頭で犯人を明かす構成のミステリ——ものでもない限り複数の容疑者を用意しているものだが、この映画では容疑者はほとんど森谷帝二(石田太郎)ただひとりである。高校生探偵の工藤新一(山口勝平)が世間から忘れられ始めているなか、新たに台頭してきた名探偵・毛利小五郎(神谷明)を差し置いて新一にパーティの招待状を送っている時点ですでに怪しい。さらにコナン(高山みなみ)がホームズとモリアーティがライヘンバッハの滝に落ちた日の話をするので、どう考えてもモリアーティのもじりである森谷帝二(もりや・ていじ)はますます怪しさを増す。

 次にパーティ会場で森谷が古代イギリス風のシンメトリーな建築に執着していると説明されたにも関わらず、ギャラリーのなかには明らかにシンメトリーでない建築物が混じっているのでもうリーチ状態。おまけにそのギャラリーで蘭が後日新一と映画を観る予定である建物を発見し、それを嬉々として森谷に話し始めるとこれは犯人森谷やろ〜という気分になる。ここまでで森谷はまだなんの事件も起こしていないのだが、すでに圧倒的に森谷のせいである。あのおっさん、なんもしとらんけど絶対犯人やわ、工藤!

 それではミステリ的に弱いと思ったのか、もうひとりの容疑者として白鳥刑事(塩沢兼人)を用意している。いかにも怪しげな見た目と雰囲気、建築物に造詣が深い設定、犯人からの電話がある時には姿を消すなどしてミスリードを狙っているが、工藤新一との接点がなさすぎる上に、犯人と接触し「甘い匂いを感じた」という歩美(岩井由紀子)が白鳥刑事の近くに来てもノーリアクションときてる。公開当時の劇場では小五郎が白鳥刑事を犯人だと指差した時は観客席から爆笑が起こったと言われているが、私が観に行った劇場でもやっぱり観客が爆笑していた。私は「えっ、あの兄ちゃんめっちゃ怪しいしありえるでしょ」と思ったが、改めて観るとどう考えても犯人は森谷である。しかも白鳥刑事はその後原作に逆輸入されているので、これから初めて『時計じかけ—』を観る人たちはハナから疑わないんだよなあ。時の流れは残酷だ。

 物的証拠に関しても煮え切らない。というか物的証拠となり得る変装道具が見つからないからコナンが即席で捏造してだまし討ちするんだけど、さすがに反則じゃないのか。下手したら濡れ衣を着せちゃうしスッキリしない。歩美が言っていた「甘い匂い」がパイプの匂いというのも微妙すぎる。今時パイプの匂いなんて知ってる人いる? パイプスモーカーどころかパイプすら見る機会がないこのご時世に。少なくとも子供は知らないでしょ、私も当時は知らなかった。子供向けにしては厳しい。

 あと電車の爆破については謎出しがだいぶひどい。ひとつだけヒントをやろう。爆弾を仕掛けたのは東都環状線のバツバツのバツだ!ってなんのヒントにもなってねーよ!(笑)「日没までに取り除かないと爆発する」という点から爆弾が線路上にあることはだいたい憶測がつくのだが、このバツバツのバツのおかげで却って混乱して「どこやねん!?」ってなる。もうちょっとマシなヒントはなかったのか。爆弾は合計5つ、それもかなりの広範囲に設置されているにも関わらず単独犯で通すのも苦しい。爆弾の仕掛けを考えたら設置したのは1日以内だよね。めっちゃ大変そう。バツバツのバツだ!などと意味不明な供述をしていたのは疲れていたからだろうか。

 そんなこんなでミステリ的な視点で見るとちょっと雑に感じるところは多いけれど、それ以外ではいいところもたくさんあった。まず電車がカーブを走っていく描写がめっちゃカッコいい。素人目からするともう脱線寸前じゃないかってくらい車両が傾いているが、そのオーバーな描写がスピード感を強調していて逆にカッコいい。速度を緩やかに落としていく時の車掌の手に汗握る感じも非常に良い。これらの描写は当時もカッコいいと思ったけれど、今観ても充分クールだ。CGでなく手描きだから今のアニメのCG技術とダイレクトに比較できない分、ただ古いだけでなくちょっと新鮮に感じられるのもイイ。

 青と赤のふたつの配線、どちらかを選んで切らなければいけない究極の選択のシーンに突然モノクロになる演出も素晴らしい。コナンの推理で赤は切っちゃダメだってことはわかっているのだが、配線を切る蘭はそのことを知らない。蘭が意を決して配線にハサミを近づける時、場面はモノクロでどちらが青でどちらが赤かわからないのだ! ベタかもしらんけど上手いよね〜、モノクロになるタイミングもカラーに戻るタイミングもばっちりだったね。BGMも最高だよ。

 そして何よりもちゃんと『名探偵コナン』をやっているのがイイ。映画になると内容の都合に合わせて原作・アニメと雰囲気違うような……? となるものもままあるが、これはしっかり『名探偵コナン』でしかできない映画になっていて好印象。新一と蘭の絆もちゃんと活かしているし、阿笠博士も少年探偵団も園子だってそのまんま。しかし1番イイのはなんともいっても小五郎だ! コナンに爆発で壊れた借りた自転車を弁償してくれる? とぶりっ子声で頼まれた時にそんなことより、どうしてこんな無茶をしたんだ!と一喝したところもイイが、終盤で蘭が閉じ込められているビルを見つめる姿には思わず目頭が熱くなったよ。普段は相当ダメな親父だが、たまにイイところを見せるとこんな感じなんだよね。このギャップをちゃんと描けるのはスタッフが『名探偵コナン』を愛している証拠だろう。

 幼い頃に好きだったものは大人になってもある程度の思い出補正が効いて面白く感じられるものだが、今作はあまりその補正は効かなかった。その代わり、当時は軽くスルーしていた小五郎のおっちゃんのカッコよさに気づくことができた。これは大人になって初めてわかる良さなのかも。実にコナンらしい映画で楽しかったよ。

名探偵コナン 時計じかけの摩天楼

2014年発売のコミカライズ(漫画)

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last up:2018/06/04