あらすじ:驚異的な人工知能を開発した天才少年・ヒロキ・サワダが生命を絶ってから2年。彼の父親代わりだったトマス・シンドラーは、仮想体感ゲーム・コクーンの発表会で、自身の秘密を知るゲーム開発責任者・樫村忠彬を刺殺した。現場に残されたダイイング・メッセージを見た江戸川コナンは、事件の鍵がコクーンにあると睨んで仮想空間に足を踏み入れる。そこでプレイヤーを待っていたのは、“生死を賭けたゲーム”だった。

傑作だがコナン的要素に欠いた1作

名探偵コナン 天国へのカウントダウン』に続く劇場版第6弾。脚本はこれまでの劇場版全作を執筆した古内一成に変わって、脚本家でミステリ作家の野沢尚が担当。その影響なのか、これまでの劇場版の中ではかなり異色の作品である。初期コナンファンの間ではかなり評価の高い1作で、公開当時はコナンシリーズの最高興行収入を記録している。その記録は7年後の『名探偵コナン 漆黒の追跡者』まで破られることはなかった。名実ともに傑作と言っても良い存在だ。

 人工知能のノアズ・アーク(折笠愛)の冒頭のセリフ汚れた政治家の子供は汚れた政治家にしかならないし、金儲けだけ考えている医者の子供は、やっぱりそういう医者にしかならない。日本を良くするには、そういう繋がりを1度チャラにしなくちゃからもわかるように、無責任で利己的な権力者への強い憤りが込められた映画である。天才的な頭脳を持ちながら個を尊重されないヒロキ・サワダ(折笠愛)は現代日本の人々——特に子供の姿であり、彼を利用し持ち上げる大人は現代の日本そのものである。権力者家系にあることを鼻にかけている諸星秀樹(緒方恵美)・滝沢進也(高乃麗)・江守晃(愛河里花子)・菊川清一郎(斎賀みつき)の4人は、老若男女問わず権力に甘え媚を売る存在を写したものだろう。

 腐敗した権力者や国への絶望感を思わせる設定だが、一方で江戸川コナン(高山みなみ)や少年探偵団らを巧みに動かして、現代社会を変える可能性を秘めた次世代への期待感や希望感も滲ませる。ミステリを描くことに力を注いでいたこれまでの劇場版と比べると愚直なまでにメッセージ性が強い。

 個人的にこの手のメッセージ性の強い創作物はあまり好きじゃない。基本的に説教臭くなるし、そのせいでエンタメ性が低くなる作品が多い気がするから。『—ベイカーストリートの亡霊』も権力者家系の子供たちが露悪的なきらいはあるものの、絆の深い少年探偵団と触れ合わせることで、ごく自然な形で人間的な成長を描いている点は素晴らしい。メッセージが強くなると都合良くキャラクターが改変されることもあるが、今作ではちゃんと原作通りのキャラクターを保っているため、『名探偵コナン』としてのエンタメ性もある。メッセージを全面に出しながらも説教臭さはほぼ感じない。そのバランスは見事だと思う。

 では好きかと言うと、これがまた微妙。確かに『—コナン』のキャラクターはちゃんと“らしい”感じになっているが、それ以外の『—コナン』要素が全体的に弱い気がするのだ。

 まずミステリ要素である。コナンが仮想空間に飛び込むのは現実世界で起きた殺人事件を解決する糸口を求めたからだが、そこで行われるゲームの設定が“ゲーム・オーバーすなわち現実世界での死”となっているため、さすがのコナンも殺人事件より目の前のゲームをクリアすることに必死になっていく。これは現実世界に残された大人たちも同様である。一応、工藤優作(田中秀幸)がちょこちょこと事件を探ってはいくものの、その描写はかなり淡白だ。あくまでメインはゲーム・クリアを目指せ! みたいなノリである。一応ゲームの方も切り裂きジャックの謎を追う事件ものではあるが、やはり『—コナン』的なミステリとは毛色が違う印象が強い。

 ラブコメ要素も圧倒的に足りない。今回のテーマは子供の成長・血筋の優劣の否定・親子(優作×新一、樫村とヒロキもか?)の絆だから、子供と言うには微妙な年齢で血の繋がりもない工藤新一(山口勝平)と毛利蘭(山崎和佳奈)は最初から切り捨て対象だったのだろう。蘭ねーちゃんの存在感自体すごく薄かったし。たぶん今作のヒロインは諸星くんなんでしょうな。

 冒頭にも書いたように『—ベイカーストリートの亡霊』は概ね好評な映画だけど、否定的な意見も当然ながらある。特によく聞くのが「コナンが諦める描写があるのが厭」というもの。確かにコナンはやたら往生際が悪いイメージが強い。ちょっと諦めが入った『—時計仕掛けの摩天楼』でも、「くそおっ、どうすりゃいいんだっ、何かないか、何か、何か、くそっ、くそっ、何か、何か、何か、くそっ、くそっ、くそおおおおおおおお!! ……も、もうだめか……」って感じでめっちゃ足掻いていたが、今回は「あぁ……だめだ……」ぐらいで、かなりアッサリ諦める。人命救助のためなら燃え盛る建物にも構わず突入するコナンくんが、恋人と仲間と子供たちの生命がかかっている場面でこんなにもアッサリ。受け入れられないほどではないにせよ諦めんのはえーなとは思ったし、こんなのコナンじゃないと言う熱心なファンの気持ちもわかる。

 以上のように「これ、べつに『名探偵コナン』でやらなくても良いんじゃないか?」と思わせるところが多い映画である。ストーリーはよく出来ているし、作画のレベルも高くて一般的な評価が高いのは肯けるのだが、『—コナン』として見るとやや不足感があり、個人的には可もなく不可もない普通の作品といったところである。

映画パンフレット 「名探偵コナン-ベイカー街の亡霊-」

監督 こだま兼嗣 声の出演 高山みなみ/山崎和佳奈/神谷明

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last up:2018/06/15