あらすじ:八代商船の貨物船が氷山と衝突し、船長と乗組員が犠牲になった事故から15年。今度は八代商船初のクルーズ船・アフロディーテ号設計チームのリーダー・八代英人が謎の事故死を遂げた。この事故に不信感を抱いた佐藤美和子刑事が再調査に乗り出したのと同じ頃、江戸川コナンが参加していたアフロディーテ号の処女航海中に、毛利蘭の親友・鈴木園子が何者かに拉致・監禁される事件が発生。そしてついに殺人が……!

アイデアは面白いが活かしきれていない

名探偵コナン 銀翼の奇術師マジシャン』に続く劇場版第9弾。山本泰一郎監督作としては2作目である。一筋縄ではいかないトリックと、作中では咬ませ犬になりがちな毛利小五郎(神谷明)にスポットライトを当てた意欲作だが、その意欲が若干空回りしている印象だった。

 当時のキャッチコピーのひとつ激突!シリーズ初の二重デュアルサスペンス。が示す通り、二重にミステリを楽しめる構成になっている。簡単に言えば“倒叙ミステリと王道ミステリの融合”といったところか。私は特別ミステリに詳しいわけではないので、この手のミステリがどれくらい存在するのかは知らないけれど、変則的な構成ではあるだろう。なかなか挑戦的な脚本だと思うが、そのすごさをちゃんと作中で示せているかというと実に微妙である。

 序盤は日下ひろなり(山寺宏一)が被害者の八代親子を襲うシーンを見せ、倒叙方式であることをアピールする。日下は確かに自分が親子を殺害したとして爆弾を爆破したのちに逃亡を企てるが、実は真犯人はべつにいた。真犯人は日下と同じく事件の被害者たちを憎んでいたが、偶然出会った日下が彼らを殺害する計画を立てていると知り、その計画に乗じて自分こそが殺人を遂行しようと決意する。要するに、日下が「自分が殺った」と錯覚する状況に置きながら犯行に及び、法的な罪は日下に、復讐の満足感は自分に与えられるように画策した。序盤に見せた倒叙的演出は全てミスリードだったってことね。

 この構成自体はすごく興味深いが、肝心のトリックがどうしても無理があるように感じてしまう。このトリックを完成させるには、日下が確かに殺したと感じられる状況を作り出す必要があるわけだよね。でも日下と被害者が揉み合っている時にこっそり後ろから刺してこっそり帰るって、そんなん気づかれんわけなくない? そもそも揉み合ったのは不測の事態だし、ああならなかったらどうやって殺すつもりだったんだ……ってなる。被害者になりきって襲いに来た日下に自分を刺したように思わせ、そのあとに被害者を殺すっていうのもリスクが高すぎてマジかってなる。失敗したらその場でお陀仏じゃんか。

 そのツッコミを回避するためなのか、終盤になって真犯人がものすごい腕っぷしを披露してくる。でも真犯人が格闘技が得意などの情報が一切ないままいきなり毛利小五郎(神谷明)をボコボコにしちゃうので、何事!? ってなる。おっちゃんは柔道の名手なんですぞ!? とは言え、小五郎のおっちゃんが真犯人に手を出せない理由はちゃんと観客には伝わっている。それは妻の妃英理が——とか思っていたら、突然おっちゃんが一本背負をキメるので、また何事!? ってなる。繰り返しになるけどおっちゃんは柔道の名手なのだ。そんなおっちゃんが武術に長けてるわけでもない真犯人にボコられてたら、心情的な理由があるからだよねって消化するじゃん、普通。しかもその“心情的な理由”は事前に提示されているのだ。結局真犯人は武術に長けているという追加情報もなく御用となる。なんなんだ、一体。

 謎の腕っぷしを持つ真犯人とは違い、物語開始早々に空手の都大会で優勝したことをお祝いされ最強ぶりを強調されたヒロイン・毛利蘭(山崎和佳奈)は、今回も生命の危機に直面する。沈没しかけている船から脱出する途中、都大会優勝のお祝いとして少年探偵団から贈られた貝殻の金メダルを船内に落としたことに気付き、船に戻ってしまうのだ。バカ!? と言いたいところだが、はたから見ればしょうもないものを危険地帯に取りに行って死に至る人はままいる。一昔前には、一旦火事場から避難したのに携帯電話を忘れたことに気づいて再び火中に身を投じて亡くなる若者が度々ニュースになっていたものだ。でも、それをフィクションに落とし込む場合はそれ相当の思い入れを描写して、観客にしょうもないものと思わせない工夫をしなければいけない。今回は少年探偵団からの贈り物って設定でそれをクリアしているつもりだろうが、個人的には、そんなん取りに戻ったせいで死んだとなったら少年探偵団が自責の念に駆られるだろ、子供にもらったものだからこそ諦めろよって思う。

 しかもだね、その貝殻の金メダル、蘭ねーちゃんは船が爆破される直前まで知らなかったんだよね。少年探偵団は蘭ねーちゃんにサプライズしようと、蘭ねーちゃんのパーカーのポケットにこっそり忍ばせていたから。思い入れがめっちゃ薄い。そんな一度も見ても触ってもないもののためにわざわざ沈没しかけてる船に戻るとか、バカか。人が残っているとなると乗組員や救助隊が探しに来る可能性もあるのだから、他人の生命すら危険に晒すわけだよね。危険地帯に戻るのダメゼッタイ。

 そもそも、存在すら知らなかったものを落としたことになぜ気が付けるのか。存在知らなかったら落としたことにも気づけなくない? いやさ、序盤で蘭ねーちゃんの知らないうちに金メダルが落ちて、蘭ねーちゃんは落ちた音には気づいたけど、金メダル自体は目に入らなかった——みたいなシーンがあるならわかるよ。でも、そういうのないんだよね。しかも口頭での説明もない(あっても困るが)。蘭ねーちゃんは思い出した!って言うけど、思い出せる要素がどこにもない。だいいち、蘭ねーちゃんの都大会優勝って『名探偵コナン』の第1話でやったネタじゃん。そのお祝いにトロピカルランドに言って工藤新一(山口勝平)は江戸川コナン(高山みなみ)になったのだ。今作では新一には適当な祝言しかもらってないって言ってるから、あれとは違う都大会なんだろう。そんな短期間に2回も都大会やる?

 そしてその蘭ねーちゃんのピンチには当然のごとくコナンが助けに向かうんだけど、その前に蘭ねーちゃんが危機的状況にあることに勘づくシーンがすごい蛇足感ある。いきなりなんだ……この感じ……事件も解決したのに……なんなんだ……この……居心地の悪い……モヤモヤした感覚は!とか言い出す。それまでに蘭ねーちゃんを心配する描写は一切ないのに、突然モヤモヤした感覚とか言われても、こっちがモヤモヤするわ。ちょっと適当すぎません? モヤモヤした感覚を抱くのは全然構いませんけど、そこに至るまでの過程をちゃんと描写してほしいんですよ!

 ミステリとしても『名探偵コナン』としても変則型に挑戦した1本だったが、映像面に不足が目立って、アイデアの持つ面白さを出し切れていないように感じた。そもそもトリックからして映像には不向きだったのでは? とも思う。ベテランのミステリ小説家が書いたら傑作になりそう。そうした意味で非常に惜しさを感じる映画であった。

ついでに作画ミス

『水平線上の陰謀(ストラテジー)』作画ミス
『水平線上の陰謀(ストラテジー)』作画ミス拡大
© 2005 青山剛昌/小学館・読売テレビ・日本テレビ・小学館プロダクション・東宝・TMS

 阿笠博士(緒方賢一)の顔、ちょっと細い? と思ってよく見たら、右頬にジャケットの色が塗られてた。

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last up:2018/06/23