あらすじ:ふたりの現役警官が相次いで射殺された。ともに警察手帳を握って亡くなっていたことから、警察関係者の犯行——しかも上層部や組織全体が関与している可能性が疑われ、刑事たちの間には重々しい空気が流れている。そんな最中、今度は佐藤美和子刑事が狙撃され、意識不明の重体に。現場に居合わせた毛利蘭もショックで気を失い、病院へ運ばれた。目が覚めた蘭は、江戸川コナンを見るなり呟いた。「ボウヤ、誰……?」

コナンでしか味わえないスリルと快感がここにある

名探偵コナン 世紀末の魔術師』に続く劇場版第4弾。観たことのあるコナン映画の中では1番と言っていいくらい好きな作品。観賞は17年ぶりぐらいだと思うが、久々に観てもやはり面白かった。

 これまでの劇場はミステリ的に不満な部分があった。『—時計じかけの摩天楼』では容疑者がひとりしかおらず、『—14番目の標的ターゲット』では推理ショーが始まるまでに提供される情報からは犯人に辿り着けない、『—世紀末の魔術師』では容疑者のひとりが怪しすぎて提供される情報が答え合わせでしかないなど、ミステリの王道の楽しみ方である「犯人を推理して当てる」要素がかなり薄かったのである。

 しかし『—瞳の中の暗殺者』はこの辺の欠点がかなり抑えられていて、わりと終盤になるまで真犯人を絞りづらい。むしろ終盤に近づくほどに残った容疑者全員が怪しく見えてくる。しかも複数犯の可能性まで示唆してくるのだ。これはもうワクワクが止まらん。さすがに少年探偵団の証言をバラバラにするのはやりすぎな気もするが、それでも愚直に王道ミステリを目指したことが伺えるのは好印象である。過去4作の中では間違いなく最もミステリ度が高い1作だろう。

 さらに素晴らしいのはサスペンス性も高いことである。これはヒロインの毛利蘭(山崎和佳奈)が常に命を狙われる状況にあるからだ。しかも蘭の必殺技である空手を記憶喪失を用いてごっそり封じる秀逸さも見せている。いつもはお化けと怪物以外はなんでも殺せる制圧できる無敵の蘭ねーちゃんも、ここではただの女子高生。おかげで怪しげな影が蘭に迫るたびに緊張感が走る。実に抜け目のない設定だ。

 そして終盤、蘭が記憶を取り戻す直前、あのバックのカウントダウンに気づいた瞬間から、蘭と同時に観客の記憶をも埋めていくあのシーンまでの異様な高揚感は本当にたまらん! ここはもう『名探偵コナン』だとかテレビアニメシリーズの劇場版だとか、そういう枠を軽々と超えた名場面だと思うね。その記憶を取り戻す入り口が、工藤新一(山口勝平)との思い出なのも素晴らしい。蘭が蘭に戻るために1番必要なもの、それは新一との思い出だったのである。コナンファンにとっては鳥肌モンの脚本だ。

 その他の伏線の回収もスマートで、Need not to knowなんかは、ああああーっ、そう使うか! って思わず声が出そうになるレベルだった。『名探偵コナン』だからこそできる使い方、本当に素晴らしい。

 キャラクターもみんな『—コナン』らしく、特にまだ記憶を取り戻せず上手く「お父さん」と言えない蘭に対していいんだよ……すべてを思い出した時に、そう呼んでくれと寂しげだけど優しく応える毛利小五郎(神谷明)はマジ小五郎だし、眠りにつく蘭を見守りながら例え記憶が戻らなくても……あたしは一生……友達だからねと話しかける鈴木園子(松井菜桜子)はマジ園子だった。どちらも普段はいー加減なキャラクターだけど、娘想いで友達想いな点は絶対にブレないので、こうした一言が本当に沁みる。一歩間違えば「そんなこと言わない」感が出る危険もあるけれど、『—コナン』のキャラクターを熟知しているスタッフがやればこの通りである。

 あと子供の頃は気づかなかったと思うけど、園子がお化けや怪物が苦手な蘭を「悪魔の実験室」なるいかにもヤバそうなアトラクションに誘うのも、ここに行けば怖がりだった蘭を思い出すんじゃないかって希望があったからではないかと憶測できて、実際どうかは知らんけど勝手に感動してしまった。しかも園子は記憶を思い出すかも〜とか言わずに、ただ楽しいぞ〜ってだけで誘うんだよね。その辺の園子の心に秘めた感情がもう泣ける。製作者がどういった意図で挿入したセリフかは知らないけど、とりあえず泣ける。

難事件であればあるほど、わくわくするんだよ!! 策をろうした犯人を、追い詰める時のあのスリル!! あの快感!! 一度やったらやめられねーぜ… 探偵はよー!!!

 ——というのは、記念すべき『名探偵コナン』第1話における工藤新一のセリフである。『名探偵コナン』はこの言葉通り、事件に近づいていくスリルと真相が明かされた時の快感を巧みに描写して爆発的な人気を獲得していった。『—瞳の中の暗殺者』は、まさにそんな『—コナン』の魅力を『—コナン』でしかできない形で魅せてくれた傑作と言えよう。

ついでに作画ミス

『瞳の中の暗殺者』作画ミス
『瞳の中の暗殺者』作画ミス拡大
© 2000 青山剛昌/小学館・読売テレビ・ユニバーサル ミュージック・小学館プロダクション・東宝・TMS

 コナンくんの耳に妙な線が1本引かれている。ここから耳の裏側にかけて影をつける予定だったと思われる。

『瞳の中の暗殺者』作画ミス
『瞳の中の暗殺者』作画ミス拡大
© 2000 青山剛昌/小学館・読売テレビ・ユニバーサル ミュージック・小学館プロダクション・東宝・TMS

 阿笠博士(緒方賢一)の右袖が塗り忘れ。これ以外のシーンでは両袖とも深緑で塗られていた。たぶん影の色だけちゃんと塗ってる。瞳にも白目がないがわざと簡略化した可能性もあるのでミスと言っていいかは微妙。

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last up:2018/06/10