知りすぎていた男

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あらすじ:医師のベン・マッケナはパリでの医学会議の後、妻で元人気歌手のジョーと息子のハンクを連れてモロッコに休暇にやってきた。そこで偶然出会ったベルナールという人物に何かとプライベートを探られて少々不快感を覚えつつも、同じく現地で出会ったドレイトン夫妻と心地よく現地を観光していた。背中にナイフの一撃を受けたベルナールが現れるまでは……。

メイキング

 1955年になったばかりの頃、ヒッチコックはパラマウント社から英国時代の最大のヒット作である『暗殺者の家』のセルフ・リメイクの依頼を受け、本作の製作を決める。主人公のマッケナ夫妻には『ロープ』『裏窓』でタッグを組んだベテラン俳優のジェームズ・スチュアートと実力派歌手のドリス・デイをキャスティングした。これを聞いたスタッフは少なからず驚いた。スチュワートはともかくデイの方は演技経験が乏しかったし、役者としては特別評価されているわけでもなかったからである。

 彼女の起用に難色を示すスタッフもいたが、ヒッチコックは頑として譲らなかった。その理由は1950年に発表されたスチュアート・ヘイスラー監督の映画『Storm Warning』にあった。デイはこの映画のメインキャストを務めていたが、ヒッチコックはその演技を気に入っていた。『Storm—』の公開後、デイと対面する機会のあったヒッチコックは、いつかあなたを起用して映画を作ると宣言した。そして5年後、ついにそれを実現させる好機を得たのだ。

 一方のデイは、ヒッチコックからのオファーに多少なりとも戸惑った。彼女は自分の演技が魅力的なものとは感じていなかったし、ヒット作を多く生み出しているヒッチコックの期待に応えられるかも疑問だったからだ。結局は当時の夫で映画プロデューサーだったマーティン・メルチャーの勧めもあって仕事を引き受けることにしたものの、撮影に入るとすぐに彼女は後悔し始めた。ヒッチコックはデイとほとんど会話を交わそうとせず、アドバイスの類いもほとんどもらえなかったからだ。

 元々演技力に自信がなかったデイは、ヒッチコックの態度を自身に対する不満の表れだと受け取った。時間が経つことに憂鬱感が増していった彼女は、ついにヒッチコックに降板を直訴。これで双方わだかまりがなくなると思ったデイだが、その予想は外れた。ヒッチコックは、もしも演技に不満があれば直接そう伝える、君と最低限の話しかしないのは君に満足しているからだといい、彼女を懸命に引き留めた。それからのデイは演技に迷うことがなくなったという。

 撮影は1955年の7月に終了、それから1年後の1956年7月に映画は一般公開された。1週間経つ頃には1956年前期で最も高い興行収入をあげた映画となり、デイの演技も高い評価を得た。『知りすぎていた男』は、オリジナル版の『暗殺者の家』と同じく大成功を収めたのだった。

逸話

カメオ出演シーン

管理人より

 ヒッチコックがその生涯で唯一セルフ・リメイクを施したのが本作だ。プロットはまったくといっていいほど同じだが、リメイク版は彼のキャリア絶頂期に作られただけあり、視覚的な完成度ではオリジナル版を大きく上回っている。

 特に本作の最重要シーンであるクライマックスはそれが顕著に浮き出ている。オリジナル版のクライマックスでは母親の視点を強調する演出がなされていたが、リメイク版では母親の視点を中心としながら現場にあるすべての人やものを次々とカメラに映し出し、いままさにその現場にいるかのような臨場感を演出している。そのスケールはオリジナル版よりも確実にグレードアップされており、より強いエモーションを与えられるのは間違いない。まさに“サスペンスの神様”の最盛期にふさわしいサスペンスのひとつである。

スタッフ&キャスト

配役

知りすぎていた男

公式Blu-ray(DVDも有)

暗殺者の家

パブリック・ドメインのDVD

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