あらすじ:刑事のフランクは仕事帰りに恋人のアリスとデートに向かう。しかし待ち合わせに遅れたことや彼女の穴の空いた手袋をからかったこと、レストランで注文を急かしたことなど些細なことが重なって口論に発展。フランクはひとり店を飛び出すが、すぐに思い直して店の入り口で彼女を待ち構える。だが、店から出てきたアリスの隣には男性の姿があった。

メイキング

 1928年、ロンドンではチャールズ・ベネットの舞台劇『恐喝』がヒットを飛ばしていた。それを知った映画プロデューサーのジョン・マックスウェルは、イギリス映画界の新鋭として注目され始めていた若き映画監督・アルフレッド・ヒッチコックに同作を映画化させようと思いつく。ヒッチコックは承諾し、翌年初めから撮影が開始された。

 当時のイギリスでは映画と言えばサイレント——音声を初めとした音が一切ない映画——であり、『恐喝〔ゆすり〕』もサイレント映画の手法に法った制作が行われていた。だが、ヒッチコックはアメリカで広まりつつあったトーキー映画——音のある映画。アメリカのトーキー映画『ジャズ・シンガー』が1927年に公開されて以降、急速に支持されるようになった——の勢いを強く感じており、イギリスでも近くトーキーが撮れる環境が整うのではないかと予想し、音が入ることを想定しながら撮影を進めた。その予想が的中したのは、撮影終了間際のことだった。『恐喝〔ゆすり〕』は急遽トーキー化される運びとなり、音声が入るシーンのみ撮影し直すことになった。

 そこで、ひとつの問題が浮上した。主演のアニー・オンドラの“発音”である。彼女が演じるヒロインのアリスは生粋のイギリス人という設定だったが、ポーランド出身のオンドラが話す英語にはイギリス人とは異なる独特のなまりがあった。このままでは彼女が喋るたびに観客に違和感を持たせてしまうが、キャストを変えるとなるとすべてのパートを録り直さねばならず、莫大な追加費用がかかることになる。それにオンドラは当時のイギリスで人気の高い女優のひとりで、なおかつ映画関係者の間でも好かれていたから、スタッフの多くは彼女と仕事を全うしたがったし、それはヒッチコックも例外ではなかった。

 考えあぐねた結果ヒッチコックが出した解決案は、オンドラに口パクで演技させ、その口の動きに合わせてイギリス人女優のジョーン・バリーにアテレコをさせるというものだった。完成した『恐喝〔ゆすり〕』は6月に報道関係者向けの試写会にかけられると大好評を得、11月の一般公開でも大きな成功を収めた。

逸話

カメオ出演シーン

ヒッチコックのカメオ出演シーン
電車で読書中に少年からいたずらを受ける乗客

管理人より

 ヒッチコックのサスペンスフィルム第2弾。トーキー特有の音を効果的に使った演出が冴え渡り、ヒッチコックの映画表現への探究心が強く感じられる1作。しかしのちにトーキーが映画の標準になるとヒッチコックもトーキーで多くの傑作を撮るようになったため、わざわざ本作をヒッチコックベストに推す必要もなくなってしまった。いまなお高い評価を得ている『下宿人』と比べると影が薄いのもそのせいかもしれない。

 しかしほとんど前例のないトーキーという分野でここまで特有の演出を作り出したのは見事だと思うし、動きが極端に制限されているなかでも効果的にカメラを使おうとする野心に関心する人も少なくないはず。トーキー黎明期の映画やヒッチコック映画に関心がある人にぜひ推薦したい1本だ。

スタッフ&キャスト

配役

恐喝 [DVD]

高画質DVD

出典

※1…フランソワ・トリュフォー(山田宏一・蓮實重彦 訳)『定本 映画術 ヒッチコック/トリュフォー 改訂版

last up:2019/02/28