あらすじ:実母に押し付けられた借金を返済するため、夜の仕事に就いている百合。たったひとつの希望だった幼い弟・聡を失い、絶望の淵にあった彼女だが、同僚から教えられた「死者と話せるスマホ用アプリ」を利用し始めてからは、生きる気力を取り戻しつつあった。しかし、そのアプリには大きな落とし穴が——。

小松彩夏の本気が見られるホラー映画

 小松彩夏が主演と聞いて興味を持っていたものの、ホラーものが好きではないので敬遠してきた本作。しかしこの度GYAO!で期間限定の無料配信が実施されたため観賞してみた。

 主人公の川久保百合(小松彩夏)は、実母(毬谷友子)に押し付けられた多額の借金の返済と年の離れた弟の聡(酒井天満)の養育費を稼ぐため、夜の仕事に就いている。決して恵まれた環境とは言えないが、姉想いで優しい聡のおかげで平凡な幸せを感じられる日々を過ごしていた。だが、唯一の希望であった聡は、ある日突然この世を去ってしまう。その死の数時間前、聡が体調不良を起こしていることを知りながら仕事に出てしまった百合は、聡に対する罪悪感と希望を失った孤独感から生きる気力を失いかけていた。

 そんな折、同僚の大島マユ(桜井ユキ)から「死者と通話ができるスマホ用アプリ」の存在を知らされる。実際に使用してみると受話口からはノイズ音ばかりが漏れ聞こえて会話もままならなかったが、寂しさを紛らわすように使用を続けるうちに声が鮮明になった上、聡と百合しか知り得ない情報まで口にするようになった。懐かしい聡の声に癒される百合だったが、聡が「家に帰りたい」とつぶやくと一転して顔を曇らせる。なぜなら、このアプリを通じて死者と再会するのは禁忌とされているからだ。

 携帯電話をモチーフにしたホラー映画と言えば『着信アリ』なんてのがあったね。今回はそれのスマホ版という感じか。ただ『着信アリ』は死が受動的に向かってくるのに対して、『トーク・トゥ・ザ・デッド』は死を能動的に受け入れるという差がある。単に怖いだけで終わらせるのではなく、人間の感情を表現したホラーを目指したんだと思う。

 そのせいなのか、正直に言えばそんなに怖くはない。逆光を受ける人影がじわりじわりと近づいてきて、さあここから血まみれの顔でも映るのか! と思いきや映らないみたいな寸止め演出がすごく多いため、映像的なインパクトもかなり薄い。ビビりな私ですら「あんまり怖くねーな」と思ったので、ホラーファンが観るとかなり物足りないと思う。

 反面、失った人に対する切実な感情はかなり上手く描写されていて、監督が切な系ホラーの自信作と豪語するのもわかる気がした。ホラーファンにはホラー以外のものを観せたいし、ホラーファン以外の人も楽しませたいという意気込みをすごく感じた。超名作というわけではないけれど堅実な良作だと思う。

 しかし、アプリの存在が都市伝説と化していて、雑誌記者の笹本(大塚千弘)が取材をしようがインターネット上で検索をしようが情報がまったく出てこない、という設定は不自然だったと思う。実際に利用している人がいるんだから、友達経由で話を聞いた人やインターネット上にレビューを書いている人のひとりやふたりはいると思うんだ。心の底から会いたい人と話せたらすごく嬉しいだろうし(作中でも聡と話せるようになった百合はすごく生き生きとした表情を見せるようになる)、そうなったら勢い余って身近な人に教えたり(そもそも百合もアプリ愛用者のマユから存在を教えてもらったのだ)、掲示板やSNSに書き込んじゃう人は絶対にいるはずだ。

 特にインターネット上にも情報がゼロ、というのはかなり無理がある。2012年にもなればTwitterはもうすっかり普及していて個人の発言も容易になっていたから、存在が確認できないほど情報がないってのはちょっとない。インターネットと密接した関係にあるスマホアプリを扱ったにしてはツメが甘いという印象は否めない。

 そもそもこの雑誌記者は登場する必要があったのだろうか。記者は最後まで百合やその同僚たちと直接絡むことがなかったので、記者のパートがどうしても浮いて見える。笹本の記事(を引用したサイト)を見たのがきっかけで亮(加藤和樹)が行動を起こすという展開はあるものの、結びつきが弱すぎて取ってつけた感がすごい。キャストの演技は良いんだけど役自体は要らないように思った。

 それでも大きな不満を覚えないのは、小松さんの迫真の演技のおかげだ。私は小松さんのデビュー作だった『美少女戦士セーラームーン』を熱心に見ていたけれど、はっきり言って当時の彼女の演技は非常にマズイものだった。声は出ない、滑舌が悪い、表情は棒、不自然な動作、もうどこを取ってもいいとこなし。それがいつの間にかここ数年で急激に演技力を伸ばしていることに気づき、出演情報を得る度に作品をチェックするようになった。

 そして今作である。弟を失った喪失感、無責任な母親への嫌悪感と絶望感、都市伝説のようなアプリへの猜疑心とほのかな期待感、弟と会話ができるようになったあとの半ば狂信的な表情——小松さんの演技はシーンごとの百合のあらゆる感情を完璧なまでに表現していた。これは監督の演技指導が功を成したところもあるだろうが、芯のある声としっかりと聞き取れるセリフを考慮すれば、小松さん自身の演技力が格段に上がっているのはまず間違いない。演技ってここまで上達するんだ! と感動すらしたよ。

 小松彩夏に宿るポテンシャルはきっと想像以上に高い。これからももっと彼女の演技を観ていきたいが、こればっかりは運も必要だからね……。しかし最近はネットの影響もバカにならないし、もしかしたら一般人の感想を参考にキャスティングを決めることもあるやも——なんて一縷の希望を胸に記事を書くのであった。

last up:2017/04/11