あらすじ:戦争に交わらず、ただひたすら宇宙を目指すことを目的とした“王立宇宙軍”。しかし宇宙への距離が縮まる気配は一向に見えず、世間からは「何もしない軍隊」と見下され、隊員も一様に覇気がなかった。だが、宇宙軍士官のシロツグと争いを嫌う少女・リイクニの出会いが、宇宙軍の運命を変えていく。

名作になり損ねた名作画アニメ

 ガイナックスが初めて製作した作品として知られているが、同時に興行的には振るわず、会社を借金まみれにしてしまったことでも有名だ。この借金がどこまで尾を引いたのかは知らないけれど、『新世紀エヴァンゲリオン』の大ヒット後も借金で苦戦しているという話はあったし、最近も庵野秀明の会社(カラー)から借りた1億を返済できなくて裁判になったりして、質の高いアニメを作るわりにはお金に困りがちな会社という印象が強かったが、この作品の存在を知ってなんとなく腑に落ちた感じであった。

 主人公のシロツグ(森本レオ)は中流階級出身の宇宙軍士官。空を飛ぶことに憧れて水軍のパイロットを目指していた時期もあったが、成績不振によって果たせず、仕方なく今の職に就いた。しかし“宇宙軍”とは名ばかりに宇宙に向かえる見込みはまるでなく、もちろん戦う相手もいないため、他の軍隊からは見下され、国からは経費を削減される一方であった。シロツグ自身も職にプライドを持てず、怠惰な日々を過ごしていた。

 ところがある日、信仰心が強く戦争を好まないリイクニ(弥生みつき)から「戦争に加担することなく、誰も見たことのない宇宙を目指す軍隊なんて素晴らしい」と称えられたことから、一転してプライドが回復。人類初の有人宇宙飛行計画が発動されると、やる気満々でパイロットに志願する。

 物語のベースがユーリイ・ガガーリンの宇宙飛行であることは明らかだろう。あれを別世界で新たに表現しようとしたのだろうが、観終わった後の率直な感想は「1987年にもなって1961年の出来事を描いてどうすんの?」だった。たぶん、そんな風に感じるのは人間描写が浅いからじゃないかな。「怠惰で邪な気持ちを持っていたシロツグが宇宙を目指すうちに人間として成長する」というストーリーがあるにもかかわらず、その過程がちゃんと描かれていないように見える。要するにキャラクターに説得力がない。

 シロツグのみならずキャラクターを全体がそんな感じで奥行きがなく、全員がモブキャラみたいに存在感がない。魅力的なキャラクターがおらず、ストーリーも30年以上も昔の話をベースにしているから新鮮さもなく、観ていて退屈感を抑えられなかった。

 脚本面にも魅力が欠けていて、グノォム(大塚周夫)の死、リイクニへの暴行未遂、敵国(?)からの暗殺者、将軍(内田稔)の打上げ挫折(未遂)とか、転換期にでもなりそうなシーンでいちいち「それいるか?」って首を傾げていた。どれも唐突すぎて本筋との繋がりを感じられないというか、でかいことを描いているわりには重みを感じられなかった。

 特にグノォムの死の描写はずいぶんアッサリしていて、その時点で正直これはダメかもしらんと思った。さらにその後のリイクニへの暴行未遂で心情はかなり悪くなった。どっちも取ってつけた感が強すぎるし、シロツグの成長や迷いを描写する踏み台にしかなっていないような気がした。リイクニの件についてはちゃんと決別させたならまだしも、相手がアホの子だから許されるってそんなバカな話があるか。落とし所がわからなかったからリイクニのキャラクターでごまかしたようにしか見えなくて、その浅はかさがどうしてもダメだった。

 しかし作画(アニメーション)に関して言えば実に素晴らしく、若手がメインで作ったとは思えないほど完成度が高かった。作画だけに絞れば宮崎駿と高畑勲にも引けを取らないレベルだと思う。煽りや俯瞰などの構図に若干違和感を覚えることはあったが(パースがおかしいかまではわからない)、それもメカの精密さですべてパァにできる程度のことだった。特に打ち上げシーンの高揚感は最高! あのシーンだけでもこの作品が存在する価値は充分にある。でも、こうしたメカへの愛情がもう少しキャラクターに注がれていたらなあと惜しい気持ちにもなる。そうすればきっと今なお語り継がれる傑作になっていたと思うんだ。

 キャストは全体的にハマってはいたものの、よりによってシロツグ役の森本レオだけが最高にダメ。この人は声や演技は悪くないのだが何をやっても森本レオでしかないから、向かないものには徹底的に向かないんだよね。キャラクターのヴィジュアルに対して老け声すぎるし、なんでこんなキャスティングが通ったのか不思議で仕方がない。話題作りにしてももっとほかにおっただろ。劇中では暴行未遂もしちゃうし、公開当時ならともかく今観ると色々とシャレにならん。

 信仰心が強い女の子の影響で信仰に目覚める展開も、女の子についてったらつまらん絵や壺を買わされる的な話を連想してダメだった。この辺も信仰心が芽生える過程がちゃんと描かれていなかったせいだろうけどね。ともかく微妙な点は多々見られるけれど作画については本当に素晴らしいので、一度も観たことがないという人にはお薦めしたいのだが、その時は一言「あんまり期待しないで観るといいよ」と付け加えるかもしれない。

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last up:2017/02/11