あらすじ:地球外生命体・怪獣(Kaiju)によって人類が滅亡の危機に瀕した世界。人類が最後の希望を託したのは、対怪獣兵器として開発されたロボット・イェーガーと、それを操るパイロットたちだった。かつての相棒だった兄を失ったローリーと家族を失ったマコ——イェーガーは、それぞれの想いを抱えながら発進する!

日本の特撮・ロボットアニメのオマージュ

 公開当時なにかと話題になってはいたが、熱心な映画ファンというわけではないのでスルーしていた。私は興味が出たものにもなかなか手を伸ばさない貧乏でケチなタチだから、興味がないものに関してはよっぽどじゃないと手を出さないのだ。でも先日【TSUTAYA DISACS/TSUTAYA TV】の無料体験に登録してお金をかけずに観られる環境ができたので、観ることにした。

 『パシフィック・リム』はなによりもまず、作品全体から漂う日本の特撮ものやロボットアニメくささがスゴい。街を襲撃する怪獣や戦いの様子は『ゴジラ』や『ウルトラマン』、イェーガーのデザインや適合率の設定は『機動警察パトレイバー』や『新世紀エヴァンゲリオン』など、カットごとにいちいち「これってアレじゃね?」感が出てくる。私は特撮やロボットアニメに明るくないけど、それでもかつて目にした数少ない映像が次々と浮かんできたので、特撮・ロボットアニメのファンは頭がパンクする勢いで元ネタが出てくるんじゃないかと思う。最後のスタッフロールにはその手の分野で著名な日本人の名前がスペシャルサンクス的な位置で出てきたから、確実にそれらを意識した上で作られた作品だろう。

 たしかにアクションシーンは迫力があるし、ロボットや怪獣が好きな人なら夢中になりそうではある。しかし幼い頃から日本で過ごしてきて少なからず特撮やアニメに触れてきた身としては「日本の特撮・アニメにそっくりなら、日本の特撮・アニメを観りゃイイじゃん」と思うような映画だった。リスペクトが強いのはわかるのだが、それがオリジナリティに繋がっていないというか、オマージュの域を超えられていない気がするんだよね。

 それを特に強く思ったのは街中での戦闘シーン。『ウルトラマン』や『—エヴァンゲリオン』は街中で戦うことが多いので、それを再現したかったのかなあと思った。それ自体は全然構わないのだが、問題は街の様子がリアルに再現されすぎているのと、怪獣が現れてから大した時間も経っていないのに戦闘を開始してしまう点にある。

 『ウルトラマン』は街の様子がジオラマセットだったからフィクション感が強かったし(最近のは知らないけど、少なくとも私が知っている『ウルトラマン』シリーズはそうだ)、『—エヴァンゲリオン』だと使徒襲来以前に人々がちゃんと避難している様子が描かれているので、「街の人々は避難できているのか?」「ロボットに潰されて死んじゃった人がいるんじゃないの?」なんて余計な心配が湧き上がることはない。だけど『パシフィック・リム』は先に挙げた要素のせいでその不安が払拭されておらず、アクションシーンに集中できないのだ。

 これは菊地凛子演じる森マコが幼い頃に怪獣襲来で肉親を失っているという設定のせいもあるのだろう。マコはイェーガーのパイロットになることを熱望しているが、司令官のスタッカー・ペントコスト(イドリス・エルバ)から「両親の復讐を果たす」という私情が強すぎることを理由に却下され続けていた。だが、主人公のローリー・ベケット(チャーリー・ハナム)と適合率が高いことから、彼とペアを組んで戦闘に参加することになった。しかしイェーガーに乗るには『—エヴァンゲリオン』のようにイェーガーとパイロットの神経を繋ぎ合わせる必要があり、その過程でパイロットは自分とペアの記憶を走馬灯のように見なければいけない。そこでマコは肉親を失った時の記憶を鮮明に思い出し、それに引きずられて暴走してしまう。

 そうした過去を持っているマコは、幼い頃の自分と同じような思いをする子を生みたくないという気持ちも強く持っているはずだ。でも、そのマコが操縦するイェーガーは武器代わりに持ってきた貨物船をずるずると引きずって道路を破壊したり、怪獣と取っ組み合っている間にビルを壊しまくったり、吹っ飛ばされて起き上がろうとした時にテールライトが点灯している車をぺちゃんこにしちゃったり、とにかく街を破壊しまくっている。余計なリアリティのある映像とマコの回想のおかげで、こうした描写を見ると「この中に幼少期のマコのような子がいるのでは……」と想像しちゃって萎えてくる。

 意図的なものか予算的なものか、はたまた無意識にかは知らないけれど、日本の特撮やアニメにはそうした余計なことを考えずにアクションを楽しめる作りになっている。でもこの作品はそうした特撮・アニメの良さを引き継げていないから無駄なハラハラ感があって、アクションシーンにも爽快感を覚えられない。結局は特撮・アニメ的なアクションシーンを撮りたかっただけのように見えてしまい、そこにオマージュの域を抜け出せない理由があるような気がした。

 ついでに私はイェーガーみたいなメカメカしたデザインのロボットって嫌いなんだよね。『トランスフォーマー』もそうだけど、なんでアメリカ人すぐメカごつくしてしまうん? 日本の特撮やアニメって子供でも頑張ったら描けそうなシンプルなデザインがいいと思うんだけど、そういう点もリスペクトしてくれたらいいのに。パーツをつけすぎて改造した本人もワケワカランくなってるミニ四駆みたいなデザインは好けんのや。

 散々文句を言ったけれど、実は私の最大の目当てはアクションではなく芦田愛菜である。彼女はこの『パシフィック・リム』でマコ——つまり菊地さんの幼少期の役で出演しているのだ。芦田さんは一時期かなりメディアに引っ張りだこになっていたし、立ち振る舞いが大人が求める子供像にぴったりすぎて色々と言われることも多かったが、しかしこと演技力に関しては結構な人が高い評価を下しているのではないかな。私もそのひとりなんだけど、『パシフィック・リム』ではその評価が全く正当なものだと再確認できた。実に素晴らしかったね。もちろん菊地さんの演技もよかったんだけど、それに負けないくらいよかったよ。

 芦田さんはこれから思春期に入って演劇以外に夢中になることを見つけるかもしれないけど、どういった道に進もうがマコのように実直で優しい人になってくれるといいですね。

last up:2017/02/15