あらすじ:ファッション雑誌『Lassy』の編集者になるという夢を叶えるため、出版元の景凡社に入社した河野悦子。だが、配属先は文芸作品の文章の不備を確認する校閲部……。しかし校閲部部長・茸原から「校閲部で成果を出したら希望の部署に異動できるかも」と助言された悦子は、この仕事に全力で挑むことを決意。校閲の掟を破る破天荒な仕事ぶりで、校閲界に旋風を巻き起こす!

地味にスゴかったドラマ

 2016年10月から日本テレビ系列で放送された全10話のドラマで、石原さとみ・菅田将暉・岸谷五朗・本田翼などが出演した。いわゆる職業ものの作品だが、熱心な読書家くらいしか認識していないような地味な職業・校閲者——原稿の誤字脱字や重複表現、文芸作品のストーリー上の矛盾などの確認を行う——にスポットに当てている点が新鮮だ。

 原稿の完成度を上げ、読者がストレスなく本を読める書籍を作るために必要不可欠なこの仕事に就いたのが、石原さとみ演じる河野悦子である。悦子はおしゃれが大好きで本はファッション雑誌くらいしか読まないという典型的なイマドキの若者であり、一見校閲には向かないような人材だ。しかし校閲部の部長である茸原渚音(岸谷五朗)は、彼女の優れた観察力と記憶力を目にして、校閲部員として採用する。目の前にあることは全力で取り組む性分の悦子は、不本意ながらも校閲作業に尽力していく。

 馴染みの薄い職業ということもあり、放送中は「現役の校閲部員に話を聞いた」という記事がネット上に溢れた。その中には、悦子の行動——例えば、作品に描かれている街や建物の様子は本当にあるのかを調査するため、事実確認と称して取材に向かうなどの描写が「現実にはありえない」と批判する声もあった。

 「校閲者が事実確認に取材に行くなんて現実ではありえない」という指摘は正しいが「だからこのドラマはダメだ」というのは間違っている。なぜなら悦子の行動は随一作中で「校閲者はそんなことをする必要はない」と突っ込まれているからだ。つまり『地味にスゴイ!—』では、悦子の行動がありえないことは承知でありながら、ストーリー的な盛り上がりを作るため、悦子の性分的にやってしまうという構成を採っているのである。

 こういった脚色はフィクション作品にはつきものだ。例え実在の人物を取り上げていたとしても、必ずしも現実そのままに描かなければいけないわけではない。フィクションでは、現実的にありえるか否かよりも、観ているものの感情に訴えかけることのほうが遥かに重要になる。だから、ほとんどのフィクション作品ではありえないことばかりが起こる。それでもたくさんの人を魅了できる作品があるのは、ストーリー構成やキャラクターに説得力があったり、演出やカメラワーク、役者の演技などに力強さがあるからだ。それは作品の内部で生み出すものであり、現実とは分けて考える必要がある。

 「現実は現実、フィクションはフィクション」という思考は、得意な人と不得意な人がいるのだろう。乱暴な言い方だが、フィクションは所詮作り話なわけだから、作り話を観ても面白くないと感じる人がいても不思議ではない。仮に作り話が好きな人であっても、自分に近いものがテーマになると、途端に粗が目についてしまうこともある。現実をよく熟知しているからこそ、少しでも相違していると気になる——こればっかりは仕方がない。だが、校閲からはほど遠い場所にいる私には「現実とは違う」という批判を耳にしても、『地味にスゴイ!—』を楽しみ続けた。それは先にも書いたように、キャラクターに説得力があったからにほかならない。

 悦子は、自分が間違っている・おかしいと感じたことは納得のいくまで調べないと気が済まないキャラクターだった。例え自分の知らない世界の掟だと言われても、自分の憧れの人物の言動であったとしても、反発せずにはいられない。悪く言えば頑固で厄介だが、良く言えば純粋で一途だ。そんな悦子が自分を信じて仕事をする姿は、とても爽快で楽しいものだった。

 そんな悦子も、終盤では大きな壁にぶち当たる。憧れの『Lassy』を校閲できるチャンスを手にいれたのに、慣れないファッション雑誌の校閲や浮き足立った精神によってポカをやらかしてしまう。煌びやかなファッション雑誌の編集者たちからの扱いも冷たく、やはり自分の仕事は地味なのか……と自信喪失に陥る。

 そこに手を差し伸べたのは、悦子の想い人である幸人(菅田将暉)だ。幸人は覆面作家の是永是之として活動しているが、執筆活動の一環として一般的には知られていない仕事に就く人たちの取材をしていた。彼は遊具の点検者など、地味だが世の中に必要不可欠な職を例に挙げながら、校閲者も決して不必要な存在ではないと説く。つまり、世の中には本作のタイトル通り「地味にスゴイ」仕事がたくさんある、ということだ。

 はっきり言って観賞当初は「変なタイトルだなあ」と思っていたし、ストーリーはご都合主義で、文字や絵が溢れかえる演出もキラキラしすぎていて微妙だと感じていたが、最後まで観終えた頃にはすべてが愛おしくなっていた。役者陣の働きも素晴らしく、特に江口のりこはとても良かった。これまでも何度か演技を拝見していたけれど、今回は生真面目な校閲部員・藤岩りおんのキャラクターの良さも相まって実に可愛らしく感じた。菅田さんはこれまでイケメンと言われていることに多少の違和感があったけれど(スマン)、今では確かにイケメンに見える。今後実力派俳優を代表する存在になりそうだと思った。もちろん石原さんの演技も生き生きとしていた。本作は彼女の代表作のひとつとして数えられることになるだろう。

 視聴率は最高が13.2%、最低が11.2%。全話で10%前半をキープしていたわけだから、視聴率的にも成功したドラマと言えるだろう。今期は『ドクターX』『相棒』と人気シリーズがぶつかったし、恋ダンスが話題になった『逃げるは恥だが役に立つ』には後塵を拝したのでイマイチ目立たなかった印象は強いが、しかし前期で最高視聴率を誇った『家売るオンナ』(最高13%、最低9.5%)よりは上なのだ。まさに“地味にスゴイ”結果を残したドラマであった。

各話感想

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last up:2017/06/17