あらすじ:何百年に1度の大嵐の夜、1匹の白蛇が美しい女性に姿を変えた。彼女の名は白娘(ぱいにゃん)。かつて市場で見世物にされていたところを助けてくれた少年・許仙(しゅうせん)を一途に想っていた。再会した白娘と許仙は相思相愛になるが、白娘を悪しき妖怪だと思い込んでいる法海(ほっかい)はふたりを引き離そうと画策する。

宮崎駿が恋をした現代日本アニメ映画の原点

 中国に古くから伝わる同名の民話を基にしたアニメ映画。日本アニメ初の長編カラー映画であり、また日本アニメ界の重鎮である宮崎駿がアニメーターを目指すきっかけになった作品としても知られる。ある意味では“現代日本アニメ映画の原点”とも言える存在なのだ。

 ちなみに本作が公開された当時は、まだ日本製のテレビアニメは誕生していない。日本初のテレビアニメとなる『鉄腕アトム』が放送されたのは5年後の1963年である。こう考えると『鉄腕アトム』って意外と新しいんだね。

 しかし技術面で言えば圧倒的に『白蛇伝』の方が上だ。単純にカラーだからではなく、アニメーションそのものの質が高い。ウォルト・ディズニーを連想させるに充分な繊細な動きを見せている。『鉄腕アトム』の方は資金と人手の不足が要因で動画枚数が極端に少なかったため、このような滑らかな動きは実現できなかった。それが今の日本製アニメ独特のシンプルな動きを作るきっかけにはなったのだが、同時に労働・資金に関しては負の遺産を残すことにもなった。

 『鉄腕アトム』が資金不足になった理由は、手塚治虫が安いスポンサー料で製作を引き受けたからだと言われている。私も“日本初のテレビアニメということで当てる自信を持てなかった手塚治虫が、スポンサーが示した金額よりも少し安い金額を自ら示して契約した”と聞いたことがあるが、いかんせん10年以上——下手すりゃ20年以上前に聞いた話だから記憶に自信がない。その後詳しく調べたということもないから、真偽のほどはわからない。ただ、今のアニメ業界で「手塚治虫がもっと商売上手だったら……」と話す人が少なからずいるのは確かだろう。

 そんなこんなで『鉄腕アトム』は今観るとさすがにアニメーションが単調で古いなと感じるが、『白蛇伝』に関しては絵的な古さはあるもののアニメーションに単調さはなく、現在でも違和感なく観れる方だと思う。

パンダ(下)とミミィ(上)
© TOEI ANIMATION Co.,Ltd.

 ただ、演出面ではディズニーを意識しすぎて“ディズニーのパチモン”くさくなっている感は否めない。急にミュージカルになってみたり、動物が愛らしく動いてみたり、どタマにナイフが突き刺さっても平気だったり、ハンマーを空振りした時の高速回転だったり——とにかくいちいちディズニーくさい。しかしさすがに技術面ではディズニーに劣っているので、アニメーションの質の高さに反してチープな印象が強い。もしも日本のアニメ業界が『白蛇伝』と同等の資金に恵まれ続けていたら、今でもディズニーのケツを追っかけるようなアニメしかなかったかもしれない。そう考えれば全面的に手塚治虫が悪いとも言えない気がする。あくまで“技術面に限れば”だけど。

 ストーリー面は古い伝説が基なので、『まんが日本昔ばなし』でも観る感じでいればまあまあ楽しめる。声優がふたりだけで何役もこなす点もそれっぽいしね。しかしメインとなる許仙と白娘よりも、許仙のペット(?)のパンダとミミィの動向の方が面白かったというのは、なんとも微妙な感じ。ていうか“パンダとミミィ”ってどっちもパンダやんけ!(笑)ジャイアントパンダの方がパンダで、レッサーパンダの方がミミィだそう。なんでミミィだけちょっと凝ってんだ、不公平な。あと、パンダの尻尾が一貫して黒かったのも面白かった。“パンダの尻尾は黒”って誤解は1972年にパンダが初来日してから広まったって聞いた記憶があるけど、その10年以上前から誤解されていたんだね。思わぬ発見だった。

小青と白娘
© TOEI ANIMATION Co.,Ltd

 宮崎さんの本作への傾倒ぶりは凄かったようで、白娘に本気で恋をしたなんて話もあったらしい。小中学生の小さな女の子を主人公にしたアニメを多く手がけていることもあるのか“宮崎駿は子供好き(オブラート表現)だ”なんて言われているのだが、しかしこの『白蛇伝』を観るとその説にも首を傾げてしまうものだ。だって子供が好きだったら白娘よりも小青に恋するはずだから! 白娘ロリ要素なさすぎんよ〜。冒頭で許仙に向かって「大人になんかならないでね」とか言ってるくせして大人になってやがる。しかも許仙の方も「確かに誓うよ!」なんてフリしておいて、美しくなった白娘を見るや許仙とて若い男ですから、襟元などかきあわせて誘われるままにスイスイ後に従うのですなどとナレーションされる始末。お前も思っきし大人になっとるやないか!(笑)

 さすがに半世紀も前のアニメなので、まんべんなく人にオススメできる感じではないけれど、日本アニメの歴史を知りたい人にとっては興味深い作品なのは間違いない。オープニングクレジットに“大塚康生”の文字がデーンと出るのを観るだけでもだいぶオイシイです。今(2016年12月19日時点)だと東映アニメーションの公式YouTubeで全編無料視聴できるので、興味のある方はぜひどうぞ。私はこれを観て『崖の上のポニョ』を再観賞したくなりました。津波が起こるシーンがあるんですけど、それが目に入った瞬間『—ポニョ』を手がけている時の宮崎さんの頭の片隅にこの絵があったのかなと思った。

関連リンク

last up:2016/12/19