あらすじ:新造細胞の開発に没頭する父に反発するように従軍した東鉄也。彼は戦地で醜い人間の姿を厭というほど目にしたあとに戦死した。同じ頃、父の研究所では突然異変を起こした新造細胞が人体化。“アンドロイド”と名乗る彼らに対抗するため、父は鉄也の遺体を新造細胞で蘇らせ、再び戦いに赴かせる。

メッセージがありゃいいってもんじゃない

 公開当時は人気歌手の宇多田ヒカルが主題歌を歌い、その夫である紀里谷和明が監督を務めた映画としてずいぶん話題になった。そしていざ公開されるとびっくりするほど面白くないという悪評があちこちから発せられ、ある意味で大ブームとなった。興行的には成功したものの悪評は覆せず、10年以上の歳月を経た今もなおダメ映画の代表的存在として扱われている。しかしその反面、愚直なメッセージ性や凝りに凝ったCGなどから熱心なファンも少なくないらしい。

 ずっと興味を持てずにいた映画だが、つい先日OVA版の『キャシャーン』を観た流れで観ることにした。熱心なファンもいるということで楽しめる可能性もあるんじゃないかと期待したが、結果から言えばぜんぜん面白くなかった。

 まずもってダメなのは映像。ほぼずっと人物が背景から浮いて見えるので、それが気になって集中して観賞できない。まだ黎明期だったCGをフル活用しているから仕方ないよと言われるかもしれないけれど、『CASSHERN』よりも前に公開された宇多田ヒカルの『traveling』のPVはもっと自然だった。『CASSHERN』も『traveling』のPVも紀里谷さんが作ったはずなのだが……。

 これが『traveling』のPV。公開当時は私もかなりの衝撃を受けたが、今見ても人物とCGが上手く馴染んでいると思う。こうしたナチュラルさがなぜか『CASSHERN』にはない。

 ところどころで妙な縦線が見えるのも非常に気になる。調べてみるとこれは「ハレーション」という現象で、ライトを強く当てた時に映るものらしい。簡単に言えば色が飛んでいる状態。

『CASSHERN』のハレーション
© 2004 「CASSHERN」パートナーズ

 たぶん幻想的な世界を演出するために使ったんだろうけど、視界がチラチラしてうるさいし人物が見えづらいから動きもよくわからないし、はっきり言って邪魔でしかない。『CASSHERN』ではこの手のエフェクト効果はぜんぶ失敗していて、アクションシーンで繰り出されるモーションブラーもアニメチックすぎてちっともスピード感がないし、カットつなぎが悪いのも重なってむしろトロくさくてチープな印象すら受ける。

 “アニメチックすぎ”と書いたけれど、たぶん『CASSHERN』は意図的にアニメチックに作ったんだと思う。紀里谷さんは『新造人間キャシャーン』のファンだったっていうし、そのアニメから受けた感銘を映画に活かしたかったのではないかと。でも、動きが限られているアニメと動きを精密に反映できる実写映画は、同じ映像作品ではあっても説得力の持たせ方は根本から異なるんだよね。特に日本のアニメは予算の都合でリミテッドアニメの手法で作らざるを得なかった歴史があるわけで、その演出をそのまま実写映画に落とし込んでも迫力は出ないし、トロくさくてチープになるのも当然だと思う。おそらく紀里谷さんに向いているのは実写映画じゃなくて『ミュータント・タートルズ-TMNT-』みたいなCGアニメじゃないかな。

 他にも爆撃を受けて死んだはずの鉄也のご遺体がめちゃんこ綺麗だとか、そもそも手榴弾のピンが外れる過程が不自然だとか、サグレー(佐田真由美)の剣が吹っ飛んだ上に腹に突き刺さる過程がさっぱりわからないとか、争いや憎しみ合うことに嫌気がさしている鉄也が守り神を意味する「キャシャーン」を自称した上で戦う流れが意味がわからないとか、どいつもこいつも喋りが説教くさくて長すぎるとか、俳優がみんな棒演技に見えるとか、最後がどうなったんだかさっぱりわからんとか、気になるところがありすぎてぜんぜん映画に入り込めなかった。

 もしかしたら『CASSHERN』はとにかく「反戦、許し、平和」って言いたいだけで、映画を観せる気はほとんどないんじゃないか? もしくは「反戦、許し、平和」みたいなメッセージさえあれば映画が出来上がると思っているか。どっちにしても娯楽映画としては間違っていると思う。映画の世界にどっぷり浸かれないとメッセージを汲み取ることはできないし、メッセージだけが先行していると説教されているようで厭になるから。

 娯楽作品でメッセージを語る最大の利点は、普通に主張すれば届かないかもしれない人にもメッセージを届けられるという点にある。いわば娯楽作品はオブラートで、メッセージはそれに包まれる粉薬になるわけだ。でもメッセージが全面に出過ぎていると粉薬だけ出された状態になるから、合わない人にとってはマズくて仕方ないし、体調が優れるどころか却ってグッタリしてくる。『CASSHERN』がやっているのはまさに直に粉薬を投与することで、オブラートはあとから提供しているに過ぎない。だから粉薬自体は大丈夫な人でも、後からオブラートを出されることに激しい違和感を覚えることになる。

 世の中には「反戦、許し、平和」が大切だと思っている人はかなり多いと思う。それを愚直に描いた『CASSHERN』がイマイチ受けなかったのは、粉薬とオブラートの提供順を間違えたからだろう。中には粉薬は簡単に飲み干せるし、そのあとにオブラートだけむしゃむしゃ食べることにも違和感はないって人もいるのだろうが、私はそうではなかった。もともとメッセージ性が重視された娯楽作品があまり好きではないから『CASSHERN』も面白くなかったし、映像だけ見ても秀でたところを見出せなかった。正直に言えば良い点がひとつも浮かばなくて、稀代のダメ映画と言われるのも致し方ないと思った。

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last up:2017/01/22