あらすじ:医師のベン・マッケナはパリでの医学会議の後、妻で元人気歌手のジョーと息子のハンクを連れてモロッコに休暇にやってきた。そこで偶然出会ったベルナールという人物に何かとプライベートを探られて少々不快感を覚えつつも、同じく現地で出会ったドレイトン夫妻と心地よく現地を観光していた。背中にナイフの一撃を受けたベルナールが現れるまでは……。

メイキング

 1955年になったばかりの頃、ヒッチコックはパラマウント社から英国時代の最大のヒット作である『暗殺者の家』のセルフ・リメイクを提案され、脚本家のジョン・マイケル・ヘインズと共に脚本作りを開始した。脚本の進み具合は非常に遅く、撮影が開始されてからもなかなか完成しなかったという。

 主人公のマッケナ夫妻に選ばれたのは、ベテラン俳優でヒッチコックからも信頼されていたジェームズ・スチュアートと、実力派歌手で映画女優としても活動していたドリス・デイだった。デイのキャスティングを決めたのはヒッチコックだったが、その決断には少なくない数のスタッフが驚いた。彼女は映画には数本しか出たことがなく、役者としては素人に近かったからだ。事実、彼女の起用に反対する者も多かったが、ヒッチコックはスチュアート・ヘイスラー監督の『Storm Warning』でのデイの演技を気に入っており、そうした声には聞く耳を持たなかった。

 7月にはすべての撮影が終了。それから約1年後の1956年5月25日の特別披露試写会を経て、映画は一般公開された。1週間後には1956年前期で最も高い興行収入をあげた映画になり、疑問視されていたデイの演技も高い評価を得た。『知りすぎていた男』は、オリジナル版の『暗殺者の家』と同じく大成功を収めたのだ。

逸話

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管理人より

 ヒッチコックがその生涯で唯一セルフ・リメイクを施したのが本作である。プロットはまったくといっていいほど同じだが、リメイク版は彼のキャリア絶頂期に作られただけあり、視覚的な完成度ではオリジナル版を大きく上回っている。

 特に本作の最重要シーンであるクライマックスはそれが顕著に浮き出ている。オリジナル版のクライマックスでは母親の視点を強調する演出がなされていたが、リメイク版では母親の視点を中心としながら現場にあるすべての人やものを次々とカメラに映し出し、いままさにその現場にいるかのような臨場感を演出している。そのスケールはオリジナル版よりも確実にグレードアップされており、より強いエモーションを与えられるのは間違いない。まさに“サスペンスの神様”の最盛期にふさわしいサスペンスのひとつである。

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last up:2016/09/03