あらすじ:新聞会社の社長令嬢・メラニーは、訪れたペットショップで妹へのプレゼントを探しに来た弁護士の男性・ミッチと出会う。ミッチにいいようにからかわれたメラニーは、その仕返しとして彼が手に入れ損ねたラヴ・バードを無断で彼の家に届けて驚かせようと計画する。その計画は順調に進んだ——1羽のカモメが頭をかすめるまでは。

メイキング

 1961年8月頃、ヒッチコックが新聞紙を眺めていると、鳥の大群がカリフォルニアの街を襲ったという記事が目についた。鳥たちは地上に向かって突進し、家や自動車、そして人間に対して甚大な被害をもたらしたという。実は同様の報道は1年前にもあった。その時、ヒッチコックは映像化の権利を得ていたダフネ・デュ・モーリアの短編小説『鳥』を連想したが、結局は映像化には至らなかった。しかし2度目の鳥の暴走を知った時、今度こそ実行に移すと決めた。

 脚本は『サイコ』でタッグを組んだジョゼフ・ステファーノに依頼したが、ステファーノは『鳥』の物語に興味を示してくれず、あえなく断念。その後、数人との交渉を経て、最終的には小説家のエヴァン・ハンター(※エド・マクベインの別名義)が起用されることとなった。

 10月にハンターと脚本作りに取り込んでいた頃、ヒッチコックは興味のそそられる女性に出会った。彼女の名はティッピ・ヘドレン。テレビに流れたダイエット飲料のCMで美しいブロンドをなびかせていた彼女は、活動歴10年を超えるベテランのモデルだったが、演技経験はまったくなく、また女優志望者でもなかった。ヒッチコックはMCAの重役を通じて彼女に連絡を取り、数回の面接を経てスクリーンテストを実施した。演技素人だったヘドレンはヒッチコックとその妻・アルマの助けを受けながらテストに取り組み、『鳥』のヒロインを演じるにふさわしい力を身につけていった。

 撮影は1962年3月から7月にかけて行われ、そこから約半年かけて編集作業が行われた。1963年初頭に完成した映画は、同年3月に公開されると1年足らずで1100万ドルの興行収入を獲得、驚異的な収入を記録した前作『サイコ』にも引けを取らない結果を残した。

逸話

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管理人より

 ヒッチコック・ピクチャーと言えば、まず本作を思い浮かべる人は少なくない。ヒッチコックには興味がないけれど『鳥』だけは観たという人も多いようだ。それくらいに有名な映画だが、どちらかといえばヒッチコック・ピクチャーの中では異色の存在である。というのも、本作には悪役にあたるキャラクターが存在しないからだ。

 ヒッチコック・ピクチャーの大きな特徴として、主人公側だけでなく悪役側のサスペンスを描くという点がある。自らの罪が暴かれることを恐れ、人々を、警察を、刑罰を恐れる——そうした悪役の感情を描写することで、主人公視点だけでなく悪役視点のスリルも味わえるようになっている。しかし本作は表題通り悪役が鳥であり、その鳥は単なる動物として処理され、焦りや不安や恐怖といった感情は描写されない。従ってサスペンスの要素のひとつがごっそりと抜け落ちていることになる。その抜け落ちた魅力を補うためなのか、キャラクター設定や人間関係の描写はほかではみられないほど長い時間を割いて行われる。だが、そのせいで鳥を用いたサスペンスが発生するまでにひどく時間がかかっており、キャラクター描写に冗長な印象を抱いてしまう。以上の欠点が、この映画にヒッチコックらしさが欠いていると感じる原因なのだろう。

 サスペンスを期待しながら鑑賞すると退屈に感じる時間が多いことは否めないが、しかし前述のようにキャラクター描写は丹念なため、キャラクターの愛らしさはヒッチコック・ピクチャーのなかでも優れたポジションにある。鳥を用いたサスペンス描写はヒッチコックらしさを感じる出来栄えだし、ヒロインを勤めたティッピ・ヘドレンもヒッチコック・ヒロインにふさわしい知性と華やかさを感じさせる女優であるため、ヒッチコックの女優を撮る技術の高さも充分に体感できる。そういった意味では、ヒッチコック入門に適した映画と言えるかもしれない。

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last up:2017/06/07