あらすじ:カメラマンのジェフは取材中の事故で左脚を骨折して自宅療養中。自由に動くことのできない退屈な日々を、ご近所の「出歯亀」をすることで紛らわせている。そんな生活も残りわずかとなったある日、いつも喧嘩の絶えない夫婦の家から妻の気配が消えたことに気づく。ジェフは残された夫の奇妙な行動から、彼が妻を殺害したのではないかと疑い始める。

メイキング

 1953年の夏頃、ヒッチコックはコーネル・ウールリッチ(ウィリアム・アイリッシュ)の短編小説『It Had to be Murder』を映画化するため、ジョン・マイケル・ヘインズに脚本を依頼。同時に当時撮影中だった『ダイヤルMを廻せ!』の現場にヘインズを呼び寄せ、同作でヒロインを務めていたグレース・ケリーをよく知るよう伝えた。ヒッチコックは『裏窓』のヒロイン・リザにケリーを起用する気でおり、役の上で彼女の魅力を存分に発揮したいと考えていた。

 しかし当のケリーは『裏窓』のオファーを受けて動揺した。彼女はそれ以前にエリア・カザンの『波止場』にイディ役でオファーを受けていたからだ。『裏窓』と『波止場』の両方に出演することは不可能だったため、ふたつの作品を天秤にかけなければいけなくなった。双方の脚本を読み比べた結果、ケリーが選んだのは幸いにして『裏窓』であった。ヘインズの脚本は原作から大幅に脚色されていたが魅力のあるものだったようで、ベテラン俳優のジェームズ・スチュアートも脚本を読んですぐに主演を務めることに承諾してくれた。

 撮影は1953年末頃から1954年始めにかけて行われ、完成した映画は8月4日に公開された。当時はテレビ文化の黎明期で映画館から人々の足が遠のき始めていたが、『裏窓』はそれ以前の時代の映画と比べても遜色のない数の人を夢中にさせた。中でもヒロインを務めたグレース・ケリーは一躍注目の的となり、今日まで続くハリウッドの伝説の座を掴むこととなった。

逸話

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管理人より

 サスペンス映画を数多く作ったヒッチコックだが、その実サスペンスものにありがちな「ロボットのように冷酷な犯罪者」は少ない。ヒッチコック・ピクチャーに登場する悪役の多くは「自分の悪事が露呈すること」「自分の生命が危険にさらされること」を非常に恐れている。ヒッチコックはしばしばそんな自分勝手な悪役に観客が感情移入するように仕向け、悪役が窮地に立たされるとその身を案じさせた。光にとって陰がさすことは悲劇だが、陰にとってもまた光がさすことは悲劇である。ヒッチコックはその両方の視点からサスペンスを生み出していた。

 本作の主人公は、その光と陰の両方を兼ね備えた存在といえる。光の視点でみれば犯罪者に適切な処罰を受けさせるために奮闘する男になるが、陰の視点でみれば「のぞき」によって得た些細な情報から隣人を殺人鬼(とその被害者)に仕立てあげる男にもなる。そのため、光に包まれそうになる陰、陰に覆われそうになる光、両方の緊迫感を彼の一挙手一投足から得られるようになっている。それに加えてグレース・ケリー(&セルマ・リッター)とレイモンド・バーという独立した善と悪も登場するため、光と陰のそれぞれのサスペンスがほかのヒッチコック映画よりも俄然際立っているのである。

 この映画は人気絶頂機にモナコ公妃となり女優業を引退した伝説的女優、グレース・ケリーの代表作としても知られている。彼女がいくつもの豪奢なドレスを身にまといながら演じるリザというキャラクターは、その容姿と身のこなしからは想像もつかないような大胆な行動をとる。しかしそれでも彼女のエレガントさは一向に失われず、むしろより一層美しさを増しているかのようだ。ヒッチコックは女優を美しく撮る術に長けており、彼の映画の主演となった女優は「ヒッチコック・ヒロイン」として親しまれているが、『裏窓』におけるグレース・ケリーはまさにその代表格といえるだろう。

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last up:2017/05/02