あらすじ:刑事のフランクは仕事帰りに恋人のアリスとデートに向かう。しかし待ち合わせに遅れたことや彼女の穴の空いた手袋をからかったこと、レストランで注文を急かしたことなど些細なことが重なって口論に発展。フランクはひとり店を飛び出すが、すぐに思い直して店の入り口で彼女を待ち構える。だが、店から出てきたアリスの隣にはべつの男性の姿があった。

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メイキング

 1928年、映画プロデューサーのジョン・マックスウェルが、ロンドンでヒットしていたチャールズ・ベネットの舞台劇『恐喝』をヒッチコックに映画化させようと計画。ヒッチコックはこの話に乗り、1929年2月には製作の準備が整った。いつものようにサイレント映画として撮影が始まったが、『ジャズ・シンガー』の公開から急速に広まったトーキー映画の勢いを強く感じていたヒッチコックは、この映画でトーキーに進出できるのではないかと期待し、音が入ることを想定しながら各シーンを撮影した。

 撮影があらかた終了し、あとは編集を待つだけという段階になった時、マックスウェルはヒッチコックの期待通りトーキーを撮れる環境を整えた。当初は最終リールのみトーキーにする案が出たが、最終的にオールトーキー化が決まった。しかしここで、ヒロインのアリスを演じたアニー・オンドラに問題が発生する。アリスは生粋のイギリス人という設定だったが、ポーランド出身のオンドラは外国なまりの強い英語を喋るため、トーキーで撮ると画面に違和感が出てしまうのだ。かといってキャストを変えて一から撮り直すと莫大な費用がかかってしまうし、当時観客からも映画関係者からも人気があったオンドラを下ろすことは、ヒッチコックを含めた多くのスタッフにとって気が進まない行為だった。

 考えあぐねた結果ヒッチコックが出した解決案は、オンドラに口パクで演技させ、その口の動きに合わせてイギリス人女優のジョーン・バリーにアテレコをさせるというものだった。一部を撮影し直して完成した『恐喝〔ゆすり〕』は、6月に報道関係者向けの試写会にかけられると大好評を得、11月の一般公開でも大きな成功を収めた。

逸話

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管理人より

 ヒッチコックのサスペンスフィルム第2弾。トーキー特有の音を効果的に使った演出が冴え渡り、ヒッチコックの映画表現への探究心が強く感じられる1作。しかしのちにトーキーが映画の標準になるとヒッチコックもトーキーで多くの傑作を撮るようになったため、わざわざ本作をヒッチコックベストに推す必要もなくなってしまった。いまなお高い評価を得ている『下宿人』と比べると影が薄いのもそのせいかもしれない。

 しかしほとんど前例のないトーキーという分野でここまで特有の演出を作り出したのは見事だと思うし、動きが極端に制限されているなかでも効果的にカメラを使おうとする野心に関心する人も少なくないはず。トーキー黎明期の映画やヒッチコック映画に関心がある人にぜひ推薦したい1本だ。

last up:2016/10/09